COLUMN - 医療コラム
NPのための栄養管理・栄養療法
第二回/診療看護師から始める看護師が行う栄養管理
なぜ入院中の高齢患者に栄養管理が必要なのか
世界に類を見ない速度で高齢化が進んでいるわが国では、高齢化比率は28%を超えています)。また、厚生労働省の調査では全国の入院患者のうち73.2%が65歳以上の高齢者でした)。高齢者の医療費総額は、国民医療費43兆710億円の60.3%、国民所得比の10.6%)を占める25兆9515億円に増大しています。さらに、介護サービスの累計額は9兆6333億円)と年々増加しています。
連載第1回で内橋が紹介したように、高齢者の多くは低栄養だと考えるべきでしょう。高齢在宅療養者の調査では、低栄養および低栄養リスク状態の者が約70%を占めています)。リハビリ(以下、リハ)を行っている高齢患者も49~67%が低栄養)で、疾病別では大腿骨頸部骨折患者が低栄養を合併すると退院時のADLが低くなり)、脳卒中患者では半年後の死亡率と要介護率が上昇)することが明らかになっています。これらから高齢者は、疾病という侵襲に低栄養を合併すると生命予後や生活予後が脅かされるということから、入院患者に対する栄養管理が重要となるのです。
なぜ低栄養になるのか?
様々な要因が絡み合っていると思いますが、私は「とりあえず絶食」「高齢者だから少食でも仕方ない」といった医療従事者の無知・無関心が最も大きな要因になるのではないかと考えます。診療看護師が、すべての患者に対して「医療者が低栄養にさせているかもしれない」という視点にたって『栄養管理』を支援すればこの問題が回避されるのでないでしょうか。連載第二回は、栄養管理の視点から高齢患者の『輸液』についてアセスメントしてみましょう。
事例
大腿骨頸部骨折で入院した70歳代男性
身長160cm 現体重60kg(通常体重64kg)
ADL:ベッド上安静、リハ時のみ車椅子可(入院前:自立)
【術後4日目】
ソルデム3A500mL/3本キープ
リハ(理学療法40分/2単位/日)
術後から食欲がなく、豆大福一個を1日かけて食べられている。
問い
① 1日の摂取エネルギーは何kcalでしょうか
② エネルギー充足率は何%でしょうか
①の解答(図1)(図2): 合計524kcal /日(ソルデム3A 3本 258kcal+豆大福 266kcal)
解説
3号輸液3本ではほとんどエネルギーを摂取することができず、豆大福のエネルギーにすら達していません。患者の嚥下機能や病態が許すのであれば、食べたいものを食べられるように支援してください。
②の解答: 充足率29.1%(摂取熱量524kcal÷必要量1800kcal×100)
解説
充足率を算出するためには必要量を算出する必要があります。(詳しくはこちら「第一回/診療看護師の栄養管理」)臨床では心不全、腎不全、肝硬変など、様々な疾病別栄養管理の知識を求められることが多いかと思いますが、まずはエネルギーや水分を充足することが重要です。そこで、簡単な覚え方をご紹介します(図3)。
そう、ざっくり30!と覚えれば簡単ですよね。では、計算してみます。
——
必要量:体重60kg × 30kcal =1800kcal
摂取量:①の答え 524kcal
充足率:摂取熱量524kcal÷必要量1800kcal×100=充足率29.1%
——
必要エネルギーの約30%しか摂れていません。3号輸液だからエネルギーが少ないのは当然!と感じた看護師もいらっしゃると思いますが、TPN(Total Parenteral Nutrition)でも処方量によって万全ではありません(図4)。
TPNでも処方量によっては基礎代謝を大幅に下回るエネルギーしか摂取できないため、骨格筋の異化を抑制することはできません。この状態で適切な栄養管理を行わず、筋力増強訓練や持久力増強訓練といった高強度リハを進めることは低栄養を助長する支援となります。医療従事者の無知による低栄養は絶対に回避しましょう。
おわりに
医療専門職の中でも、医学的知識と看護の知識を持ち合わせている診療看護師は貴重な存在です。栄養管理の中でも看護師が苦手とする「輸液」を含めた包括的アセスメントにより高齢者の低栄養の予防・改善をはかることができれば、ADL・QOL改善に大きく貢献するものと確信しています。
(イラスト作成 れおりお/デザイナー れお)
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院
臨床栄養代謝専門療法士/NST専門療法士
急性・重症患者看護専門看護師