COLUMN - 医療コラム
新生児医療のいま
新生児医療の進歩は目覚しい。
2018年に行われたユニセフの調査によると、日本における新生児死亡率は人口千人あたり0.9人にまで減少した。1950年には27.4人であったことを考えると目覚しい救命率の進歩と言える。
しかしその一方であまり知られていない事であるが、超低出生体重児や極低出生体重時といった出生児体重1000/1500g未満の早産児は、「発育・発達過程において何らかの問題が生じる可能性がある」ハイリスク児と規定されている。平成16年度厚生科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)分担研究報告によると、1990年に日本で出生した1000g未満の超低出生体重児を対象とした総合発達評価において正常と判定されたものは3歳の時点で853例中640例(75%)、境界は93例(10.9%)、異常は120例(14.1%)となっており、超低出生体重児の4分の1は何かしらの発達遅延を抱えているということがわかっている。
多くの脳機能(特に学習能力や集中力を司る前頭葉)は妊娠後期に発達することがわかっており、脳がまだ十分に発達していない段階で出生に至ることがこれらの発達遅延の一因と考えられている。
これらの低出生体重児は、本来、子宮内で発達すべき脳構造を集中治療室という外部刺激がある環境で発達させていかなければならない。
集中治療室は、騒音、明るい照明、痛みを伴う生理学的検査、早い段階での母親からの身体的分離など赤ちゃんにとって非常に大きなストレスがかかる環境であり、こういったストレスは赤ちゃんを疲労させ、脳機能発達と成長のために使われるべきエネルギーを赤ちゃんから奪うこととなる。
近年では、集中治療室の環境を可能な限り子宮内の環境に近づけ、ハイリスク児の脳機能発達を促進させるために様々な試みが始まっている。
現在は保育器といわれる透明なプラスチックケ-スに赤ちゃんを収容し、発育を促す方法が一般的であるが、2017年、英科学雑誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に革新的な報告があっため、簡単に紹介する。
まずは、下記の写真を見ていただきたい。これは米フィラデルフィア小児病院の研究チ-ムが発表した人工子宮システム『バイオバッグ』である。
妊娠23週から24週のヒトの胎児に相当する妊娠105日から120日のヒツジ8匹を対象に実験を行ったところ、正常に呼吸し、肺や脳なども順調に発達したことが認められたという。
『バイオバッグ』は、合成羊水で満たされたポリエチレン製の透明な密閉式の袋であり、この”人工子宮”に入った胎児は、臍帯に通された管で外部の装置とつながり、自らの小さな心臓を使って、血液を循環させ、酸素を取り入れたり、二酸化炭素を排出したりすることができるという。
正にこれこそが理想的な早産児の発育環境と言えるのかもしれない。遠くない将来に高い救命率と発達遅延という課題を解決できるSolutionが実現すると思われる。
コメント